恋結び【壱】
一瞬、時が止まったようだった。
あたしを包み込むように抱き締めたのは遥。
寝起きだから力のコントロールができないのか、力強く抱き締められた。
でも、それがあたしの支えになっていて、どこか心地好く、温かかった。
途端、涙は勢いを増した。
頭上に大きな手が被さり、優しく撫でる。
「……どうして泣いているの…?」
ほら、また。
遥は優しく問い掛けてまるで愛しい人を撫でるようにあたしを撫でる。
それがまたあたしを傷付ける。
やめて。
これ以上あたしに優しくしないで。
お願い。
期待してしまうから。
……結局、あたしは自分が傷付くのを恐れているだけ。
だからあたしは遥に甘え続けて自分を守ってたんだ。
それだから遥はあたしを見てくれないのかな。
ちゃんと見てほしいのに。
自分からシャットアウトしちゃって。
これじゃあ遥に気持ちを聞く前に自分を直さないと始まらない。
あたしは遥の胸から離れ、涙を拭った。
そして、笑った。
「ありがとう、もう平気だから」
ほら、また。
傷付く事から逃げた。
自分を保護して。
遥は一瞬、驚いたように目を開けたけれど、直ぐ悲しそうな表情をした。
「……嘘までついて、笑う理由は何…?」
グサッと何かに突き抜かれたようにこの身は硬直した。
衝撃を受けたように頭が思考停止状態になる。
あたしはただ悲しそうに見つめる遥から目が離せなかった。
「…ねぇ、美月ちゃん」
口が開かなかった。
「どうしてさっき、泣いていたの?……笑っていたって、心から笑っていない事だってわかるんだよ。…ねぇ、美月ちゃん…」
あたしはただ、俯きながら首を横に振ることしかできなかった。
追い詰められたらまた、涙が出てしまう。
もし、この質問に答えてしまったら遥はどう思うだろう。
呆れる?
軽蔑する?
同情する?
…………言えないよ。
遥の答えが、反応が見たくない、聞きたくない。
「怖いの?」
「…っ!!」
反射的に顔を上げた振動で涙が零れた。
遥は無表情だった。
曇りのない、綺麗な瞳がじっとあたしを捉えて、柔らかそうな唇があたしからの応答を待つように閉ざされている。
あたしは勇気を出し遥の質問に頷いた。
「何が怖いの?」
「……り…ぃよ…」
「聞こえないよ」
「…遥の気持ちが……本当の想いが…知りたいよぉ…」
溢れた涙で前が見えない。
だけど確かにわかったのは遥の温もり。