恋結び【壱】
腰に回された遥の腕。
嗅覚がおかしくなりそうなくらい香る遥の匂い。
あたしの身体はどんどん遥に敏感になっていた。
そして昨日よりも今日が遥に対する気持ちも大きくなる。
なのに。
どうして。
どうして、想いは届かないのかな。
自分を閉ざしてばかりではないはずなのに。
あたしは………。
遥に甘えることしかできない。
「…っう…ぐす…」
そんな自分に腹がたって、同時に悲しくなった。
でもそんなあたしだけで遥は気付いてくれるって、期待をしていた。
馬鹿なあたしはそんなことまで頭が働いてしまうんだ。
「……泣かないで…?」
無理だよ。
泣き止めないよ。
あたしは遥の気持ちが知りたいの。
あたしの質問に答えてよ。
「……おっ、教えてよ…っ」
泣きながらも出た言葉。
あたしは顔を埋めたまま、答えを待った。
だけど。
「……ごめん、美月ちゃん」
一気に何かが冷めた。
その言葉が何よりも一番聞きたくなかった。
涙が急に止まって、頭が真っ白になって。
受け入れられない現実に放心していた。
嗚呼、そうか。
これが現実と言うものなのか。
あたしは今まで何をそんなに舞い上がっていたのかな。
抱き締められたり、甘い言葉を囁かれたり、手を握られたり、名前を呼んだり、優しく撫でたり、口付けをしたり。
そんな風にされる度、嬉しくて安心していたけど。
あれは全てが偽りの行いだったんだね。
あたしの良い都合に作られた滑稽な夢だったんだね。
――――ならば、もう。
壊してしまおう。
「…っ」
「美月ちゃっ……!!」
この気持ちも。
遥を想っていた桃色の心も。
約束した“ずっと”を信じ続けてきた願いも。
全部、全部。
「…んっ…みづっ……っ!」
この熱く虚しい最後のキスに乗せて……。
唇を離したってまだ治まらない想い。
あたしは遥への想いを告げた。
「…あたしね、遥のこと好きだった。大好きだった。遥に触れられる度嬉しかった。あたしにいっぱい大事なことを教えてくれた」
「……みづ―――」
「でもっ……もうね、今日で終わり」
あたしは遥から離れ、最後なりの笑顔で別れを告げた。
「ありがとう、ばいばい」
走って、石段に向かう。
赤い鳥居がやけに赤く見えた。
「美月ちゃん!!!」
あたしは耳を塞いだ。