恋結び【壱】


もじもじとするあたし。
そんなあたしだけど、遥の目にはどう映っているのかな?

どう、映って…。


『うっとうしい』


「……っ!!」

ビクン、あたしの身体は不自然に跳ね上がった。
頭から離れない。
むしろ、徐々に思い出されて、拡大していって…。
“彼等”の声しか聞こえなくなる。
聞きたくないのに、聞こえてしまう。
思い出したくないのに、思い出してしまう。
どうして、だろう。
あたしが“彼等”を忘れられないからだろうか。
頭に染み付いて、離れなくて。
今更になって、思い出して、その悲惨な思い出を頭に浸透されていく。
くらくらする。
視界が歪む。
気持ちが悪い。
あたしはいつまで苦しめばいいの?
誰も助けてくれないの?


あたしは、あたしは……。




これからも、ずっと――――



「美月ちゃん!!」

「っ!!」

両肩を掴まれ、大きく揺さぶられる。
視界が揺らぐ。
その視界の中に、綺麗な瞳をした、遥の顔。
眉間を寄せて、“心配”の顔をしていた。
初めて見る、遥の表情。

「大丈夫?」

少し焦り気味の声。
これは本気で心配してくれている顔なのか。
不安になる。

いつからだろう。

人のしていることが、やっていることが。
全てが、偽っていて、本気に見えなくなって。

“人”自体が。


「…大丈夫」




信用できなくなってしまっていた。




気が付けば、誰もあたしを心配しなくなった。
それも、あたしが悪いから。
何もかも、あたしが悪くて…。

今更だけど、あたしって、最低な女だよね。


あたしは遥から逃げるように、顔を伏せ、バレないように、泣いた。

泣いた、というか、自然と涙がでてしまっていた。
なんで、だろう。
今まで、こんなことに涙なんか流さなかったのに。
この場所なら、遥の隣なら。



涙が流しても良いよと、言っているような気がした。


「…美月、ちゃん……」

とうとう、あたしは抑えていた泣き声が表に出てしまい、肩を震わせた。
遥はあたしを、自分の方に引き寄せ、優しく包み込むようにして、抱き締めた。

遥の胸は、温かくて、あたしには勿体無いぐらいの心地好さで、何より、“安心して泣ける場”だと、あたしは思った。




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