恋結び【壱】
「……」
気が付いたらそこは見慣れた天井。
少し明るくなった室内。
それは朝だと知らせてくれる。
ここはもう現実。
あたしをどこか安心させるような感じにさせる。
でも。
あれは夢でも、夢ではなかったんだ。
確かに感じた遥の感覚が未だに残っているのだから。
「はる……」
本当に消えてしまうの?
わかっているのに生まれる疑問。
悔しくて、布団を握った。
いつ?
いつ消えてしまうの?
今日?
今日ならあたしは……。
「……こんなこと、してられないじゃん…」
あたしは携帯の画面を見て時間を確かめる。
既に7時を過ぎていてあたしは一息つき、布団を剥いだ。
顔を洗ったり歯磨きをするために脱衣場に向かう。
そして自室に戻る。
パジャマを脱ぎながらふと思った。
もし、今日遥が消えてしまうのであれば。
あたしはどうしよう。
笑ってられるかな?
泣いてしまうかな?
もし、ではない気がする。
確実に今日。
遥は消えてしまいそうな。
そんな気がしてしまう。
あたしはカーディガンに腕を通した。
「さて…と」
障子を開けてあたしは板敷きに足を着く。
だが。
ピタリと立ち止まった。
肝心な物を忘れてしまった。
あたしは机の上にある瓶に入っているネックレスを出した。
遥からもらった、ハートのネックレスを。
身に付け、首もとを触り確認して、再び、板敷きに足を踏み入れた。
玄関で靴を履き、扉に手を掛け、ゆっくりとスライドさせて暖かい遥の陽を身体で受け止めた。
パシャリと、扉を閉めるとあたしは空を見上げた。
………もう一度、この家に戻って来る時は、この世に遥はいないのだろうか。
あたしはどんな顔をしているのだろうか。
後の事を考えてみると色々大変な気もする。
でも、もう。
後には戻れない。
最近行ってない水城神社だってもうこれで最後になりそう。
「…頑張れ、あたし」
そう自分に言い聞かせてあたしは足を前に動かした。
大切にしなきゃ。
最後になる、遥との時間を。