恋結び【壱】

第ニ十三話 さよならじゃなくて



近頃、ううん。
もう来ないと思ってた場所に向かっているあたし。
胸はうるさい程に高鳴っていた。
でもきっとこの高鳴りは、不安とか、悲しみが詰まってると思う。

「…そうか」

ポツリと呟いた場所は海が一望できる窪みの空いたガードレール。
ここは遥との思い出の一つ。

そうか。
もう、水城神社に遥目当てで来ることはないんだ。
今日が最後なんだ。
神社の踊り場で遥があたしを待っていることは。

今日で最後。
今日で……。
本当に………。

ポタリと流れ落ちる雫。
あたしはハッとしてそれを拭った。

泣いちゃ駄目だ。
泣いたら、駄目なんだ。

あたしは自分に言い聞かせてガードレール沿いを歩いた。
しばらくすると木々のトンネルにぶつかる。
ざわざわと木々がざわめく。
木と木の間から差し込む光が目を瞬かせた。
瞼がほんのり暖かくなる。
濡れたまつげを乾かしながらあたしは唇を噛んだ。

ようやく石段に着く。

「……」

初めてこの石段に辿り着いた時は正直、不思議な気持ちに包まれてた。
半分以上登れば、胸が苦しくなって雅也の記憶が蘇ったっけ。
この後に起こる出逢いなんか予想すらしていなかった。

あたしは石段を登り始めた。
扇ぐ生暖かい風があたしの背中を押す。
まるで「頑張れ」と応援されてるかのように。
最後の一段を丁寧に足を掛ける。
そして一気に身体を前に突き出した。

そこには何も変わらない真っ赤な鳥居が待ち構えていて、参道の先にあるお賽銭箱と踊り場があたしを迎える。
そして。
夢に出てきたあの人。

「美月ちゃん、こんにちは」

遥があたしを待つ。
あたしは走った。
笑顔を浮かべた遥の元へ。

「遥………!!」

あなたは本当に夢の中に来ましたか?
あれは本当の夢でしたか?
夢ならばあなたは消えませんか?

あの夢の中に出てきたのがあなた自信であれば、消えてしまうと言ったのは事実なのですか?


あたしは遥を抱き締めた。
遥もあたしを抱き締めた。
こんな光景は本当に今日で終わりなのだろうか。
自分で「思い出作り」と言っておきながら、本当に思い出なんて作れるのだろうか。

「……遥…本当なの…?」

「……え?」

「本当に……消えちゃうの…?」

「いいえ」って言葉が聞きたかった。
だけどやっぱり現実は現実。

「はい……」

あたしは唇を噛み締めながら遥にしがりついた。








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