恋結び【壱】



あたしの隣に座った遥は空を見上げていた。
そしてあたしの右手を握った。

「少しばかり、俺の思っていた事、話してもいいですか?」

「…うん」

“思っていた”。
遥はそう言った。
それは過去形を表している。
その言葉に少し胸が痛んだ。
そして遥は話し出した。

「……俺ね、美月ちゃんとの将来を考えたりしてたんだ」

あたしとの将来を…?
……あたしもだよ、遥。

「でね、子供も作って暖かい家庭を作って……って、馬鹿だよね、俺」

馬鹿じゃないよ。
素敵だよ、その考え。

「幸せを分け合って、毎日愛し合って……」

あたしも。

「あたしもね、同じこと考えてたよ」

空を見上げていた遥はあたしの方を目を丸くして向いた。

「二人で暖かい家庭を築くんだ……」

苦しくらい幸せな願い。
口にするのが辛かった。
だけど、それくらいが丁度良いのかもしれない。
恋ってそんなものだ。

「…そんなこて考えてもしょうがないってわかってる……だって魂の断片なんだから……」

「……」

そう言って遥は笑っていた。
そんな遥を見てあたしは悲しくなった。
笑う遥を見るのが苦しい。
どうして笑っていられるの?
あたしは無理だよ。

「………だけど、魂の断片でも……未来の美月ちゃんに逢えて、俺は良かった」

「……遥っ…」

泣きそうだよ。
今にも涙が出そうになるよ。
あたしは握った手を、強く握った。

「……美月ちゃん…?」

「……わかってる、運命は変えられないって……わかってる……でもっ」

いきなり吹き寄せる風に、あたしは息を飲んだ。
これまでに見たことがないような美しい光景が目に映る。
金箔のようにヒラヒラと舞い散る。
これはまるで桜だ。

「……何、これ…」

「時間、みたいだ」

「……へ…?」

苦しいくらい悲しい現実が襲ってきた。
あたしは遥に目を向けると、遥はこの場に似合わない程の美しい笑顔をあたしに見せた。

「……遥…?」

掠れたあたしの声はしっかり遥の耳に届いていた。

「…美月ちゃんがさっき言った言葉…きっとさ、こう言いたかったんでしょ?」

遥はあたしの耳元で囁いた。




――――運命はまだ未来にあるから。――――





あたしは唇を噛み締め、込み上げる涙を堪えた。










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