恋結び【壱】
「……俺が消えたあと、ポケットの中を見て?…それに願い事を書くんだ」
「…願い……事…?」
あたしは首を傾げた。
「そう、願い事。だけどその中にある“おみくじ”だけは見ちゃダメだよ」
ただ目の前にいる笑う遥が愛しかった。
涙は一粒ずつゆっくり流れていく。
「……見るべき時に判断して見てくれればいいよ」
「…遥……肩が…」
「ああ……もう、時間だね。………美月ちゃん」
時間。
もうすぐで遥はこの世から消えてしまう。
あたしの胸は締め付けられた。
遥は柔らかい笑顔で言った。
「……別れのない出逢いはない、そう言ったよね」
「うん…」
「………ならさ、その逆も有り得るよね」
出逢いのない別れはない。
あたしには意味がわからない。
でも遥の言葉だから。
最期だから。
ちゃんと胸に染み付いたよ。
「……また、君に逢えるなら……俺はまた……君に恋をするだろう…」
「………あたしもだよ…」
笑顔で言った。
あたしも微笑んだ。
そして遥は最後に口を開いて、言った。
「またね。……愛しているよ、美月……――…」
遥は、消えた。
粉雪のように。
「遥、あたしもだよ」
涙は一粒、頬を伝った。
遥の気持ち、ちゃんと受け取れた。
あたしの気持ち、ちゃんと伝わったかな?
………伝わったよね。
消えちゃった。
あたしの大好きな遥が。
もう二度と、会わないのだろうか。
もう二度と、笑顔であたしの前に現れることはないのだろうか。
会いたい。
『またね』
遥は“またね”って言った。
それはどういう意味?
“また会える”って意味?
そう、期待してもいいだろうか。
それともあたしが悲しまないように仕向けたもの?
わからないよ。
「………ぅっ…うぇっ……」
我慢していた涙がどっと溢れた。
“悔しさ”、“悲しみ”、“苦しみ”が混ざりあって一つの“涙”という物質に変わりそれはあたしの中から溢れ返った。
やっぱり、あたしにはキツかったよ。
大切な人を失うことは。
そう言えばこれで二度目だね。
切ない恋は嫌だ。
甘い甘い、恋がいいよ。
最後はハッピーエンドがいい。
「………遥…っ…」
あたしは一人、遥の手の温もりを包みながら、大声で泣いた。