恋結び【壱】
最終話 貴方がいないこの世界で
あれから三ヶ月の月日が経った。
今は七月。
だんだん暑くなってきた。
今は縁側に座っている。
「…あっつい………」
「ババアか、てめぇは」
隣に居るのは翔太くん。
相変わらず口が悪い。
………でも一つ変わったことがある。
“遥”についての記憶がないのだ。
翔太くんだけじゃない。
達大さんだってそうだ。
あたしが話しても。
『はあ?誰だよそいつ。浮気相手か!?………ぶっ殺す』
『誰だい?美月ちゃんの友達かな?今度連れてきなさい』
と、言うのだ。
そうなるとあたしだけしか知らない存在と化しているという考えになる。
それはそれで良かったのかもしれない。
「はぁ…」
溜め息を一つ。
「どうかしたか?」
「べっつにー」
「……あっそ」
空は澄みきって綺麗。
確か遥ともこんなような空を見たっけ。
……遥、今どこにいるのかな。
空かな?
あたしのこと、ちゃんと見れてるかな?
「そうだ」
あたしはあることを思い出し、立ち上がった。
翔太くんはあたしを見上げて「どこいくんだ?」と聞いてくる。
あたしは足で翔太くんの背中を蹴ってやった。
「……鬼だ」
「鬼で結構ですー」
それだけ言うとあたしは自室に向かった。
向かう途中、達大さんに出くわす。
達大さんは片手にうちわを持っていた。
「暑いねー美月ちゃん」
「あたしはそんなにも」
「あっ、あれ?」
笑ってあたしの方にもうちわで風をくれる。
パタパタと扇がれるこの風が気持ち良い。
「そう言えば美月ちゃん」
「はい?」
「友達はいつ来るんだい?」
「あーー…」
あたしは曖昧な返事をして、「まだ当分先ですよ」と言った。
「そうか。まあ美月ちゃんの友達だから良い子だろうね」
「じゃ」と言って達大さんはあたしに背を向けた。
時々、心が揺れる。
達大さんが「美月ちゃん」って言う度、遥を思い出すから。
でも。
『美月ちゃん』
もう二度と呼ばれることはないのだろう。
逢うことも。
ないのだろう。