恋結び【壱】
どくん、どくん、どくん。
強く打ち付ける鼓動がうるさい。
「どうしよう、どうしよう」あたしの頭はそれだけしか考える事しか出来ない。
違うことを考える余裕など、全く無くて。
あたしの思考はぐちゃぐちゃにかき乱される。
「何をどう考えれば良いのか、どう行動すれば良いのか」と、あたしはこの状況にただ“怯え”、冷や汗をかくのであった。
すると翔太くんは寝返りを打つ。
あたしの心臓はどきり、いや、そんな程度じゃないくらい、跳ね上がる。
息の仕方すら忘れる程、あたしの脳はぶっ飛んでいた。
あたしは動かず、ただじっと、その場にしゃがみ込んだままで。
動いたら微かな音がして、翔太くんが起きそうだから。
あたしはただじっとしている。
だけど…。
もし起きてしまったら。
あたしの事に気づいてしまったら。
いや、完璧気付く。
あたしはその事に、ただただ“怯え”て、いた。
『寝顔見るとか、マジないわ』
そう、言われるのが怖いから。
翔太くんはあたしの“婚約者”。
だからこそ、翔太くんにはあたしの事を悪く見て欲しくない。
嫌われたくない。
見捨てないで欲しい。
あたしは静かに顔を伏せると、ふと、思い出す。
『俺はこれっぽっちも離れる気は、ないから』
回想された遥の言葉。
あたしの心は徐々に温かくなって、冷たく、硬くなった心を解してくれる。
翔太くんは、翔太くんは…。
あたしの心を解し、温かくしてくれる言葉を。
ねぇ、翔太くん。
貴方は、あたしを…。
「…ねぇ…」
あたしは膝と手を付き、翔太くんの寝る布団に近寄る。
起きたら怪しまれる。
嫌われるかもしれない。
見捨てられるかもしれない。
だけど。
そんなの知らない。
あたしは欲しいだけ。
遥みたいな温かい言葉が欲しいだけ。
翔太くんから。
あたしは欲張りかもしれない。
ううん、違う。
欲張りなんだ。
遥の言葉でドキドキして、もっとそんな言葉をもっと欲しいと血が騒いで。
それで今、翔太くんから、言葉を貰いたいとまた、血が騒ぐ。
ゴメンナサイ。
ショウタクン。
アタシヲ、ユルシテクダサイ。
あたしは、あたしの反対側に向く翔太くんの横顔を見つめる。
柔らかい髪が、横に垂れる。
どくん、どくん、と、鳴る鼓動を速くする。
何故だろう。
そんな翔太くんの横顔を見ていたら、遥に逢いたくなってしまった。