恋結び【壱】

第四話 春の宵に



「あーあ。暇だなぁ」

あたしはいつもと同じ場所にいた。
いつもの場所。
それは。

庭を一望できる、縁側。

裸足をバタつかせ、ペチペチと鳴る音に愉しんでいた。
足の裏が石に当たるたび、気持ちの良い冷たさに、つい和んでしまう。


「だけどやっぱり、暇な方が楽だぁー…」


あたしはさっきの出来事を思い出す。



―――…


「ほいっ、ほいっ、ほらっ!!」


庭で必死に鳩に餌をあげる、翔太くんの姿があった。
初めはただじっと縁側に腰を下ろし、見ているだけだった。
別に飼っている訳ではない鳩、十匹に餌を与えていた。
翔太くんによると。

「なんかノリで餌やってたら、毎日のように来ちゃってさー」

と。

「なら、あげんなよ!!」
「毎日あげるなんて、バカか、お前は!!」
なんて。
喉まで来た言葉を必死に堪えた。

そして今、これを続けてきて1ヶ月が経ったらしい。
よく、続けられたな、と、感心してしまう。

だけど…。

「鳩、食べないじゃん」

あたしが嫌味のように口走ったら、翔太くんはピタリ、止まり、黒いオーラ全開にしてあたしを見た。

「…もう一回、言って」

「え?別に良いけど」

次は意地悪っぽく口角を上げ、頬杖を付き、首を傾げ、いかにも挑戦的に言い払った。

「鳩、食べないじゃん」

指を指して言うと、一度は固まったものの、翔太くんはあたしに近付いて来て、鳩の餌が入った袋を差し出した。

目で、「なら、お前があげてみろ。鳩、舐めんじゃねぇぞ?あぁ?もし、食って貰えなかったら命が無いと思え。クズが」と訴えてくる。

「ラジャー」と、棒読みで。
無表情のまま袋を取り、あたしは鳩に近付く。

見てろよ…。
あたしが鳩に餌、やれないわけがないこと、証明してやる!

が。

バサバサバサ。

それは袋に手を突っ込んだ瞬間でした。
目の前の鳩は消えました。
なぜでしょうか。
目の前には、鳥の羽とふんだけです。
鳩が変化したのでしょうか。
はい。
そうです。
変化したのです。

あたしは翔太くんの方を向き、頭に片手を添えて。

「すみませーん。あたし、鳩嫌いだからー。追っ払っちゃったー。ま、餌は今度でー」

あたしはブリッコでか弱い女の子を演じた。
だけど翔太くん、いや、翔太様には伝わりませんでした。

あのあと、こっぴどく嫌味を吐き捨てられました。

「あはは…」





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