恋結び【壱】
「…なん…で…?」
あたしはビックリして、何も言えない。
目を開き、月を背景に翔太くんを見る。
「ねぇ」
翔太くんの顔は暗くなるばかり。
別に夜だからって訳じゃない。
夜でもわかる。
翔太くんの表情だって。
「ま…待って…!!」
「待てない」
あたしが両手を顔の前に持ってくると、翔太くんは荒っぽく、あたしの両手首を掴む。
「…痛いっ」
あたしは固く、目を瞑る。
心臓が不適なリズムで鳴り、肌を強張らせていく。
「やっ…離して…よ…翔太くん…!!」
「質問に答えろ、美月」
「……痛いっ!」
手首を掴む翔太くんの手が、力を増し、より強く締め付ける。
遥。
遥。
遥……。
助けて…。
今のあたしには遥しか考えられない。
獣のような翔太くんを目の当たりにして。
艶やかな光を孕んだ綺麗な瞳も、今となったら殺人鬼のよう。
いや、違う。
ただの、野獣だ。
「…い、いやあっ!!!」
あたしは響くような声を張り上げ、翔太くんの手を振りほどき、その場に立ち上がった。
上から見た翔太くんも、恐ろしくて。
コワイ。
「…“奴等”と…一緒……」
あたしは涙を溜めながら、必死に翔太くんを睨んだ。
そして瞬きをして涙一粒その場に残して、走って玄関に向かい、家を出た。
「何があった、翔太」
逹大さんが翔太くんに聞く。
だけど翔太くんは何も言わずにただ黙ったままだった。