恋結び【壱】
「…だれ?その子…」
今にも消えそうな小さな声で、ボソッと呟いた。
ドクン、ドクン。
警告の鐘が鳴るように、胸が激しく鼓動を打ち付けた。
その声に驚いたのか、雅也はビクッとし、あたしの方を向いた。
「…成瀬、お前…なんで…」
なんで?
そりゃあ、誰だって着いてくるよ。
楽しくデートしてたのに、いきなり着信音がなって、雅也が駆け出して。
どうしたかと思って追って来れば、病院だった。
そして、電話を掛けて来たであろう人物の部屋に入ったら。
ベッドに寝ているのは、雅也のお母さんでもない。
知らない女の人。
「…雅也?」
透き通る様な綺麗な声が、静まり返った個室に響く。
年上だろう、女の人はゆっくりと身体を起こし、視線をあたしに移した。
そして、口角を上げ、柔らかく笑ったんだ。
「こんにちは。雅也のお友達?」
友達。
「彼女です」なんて、口に出すことが出来なかった。
なぜって?
それは、雅也と女の人は恋人のように指を絡めて手を繋いでいたから。
だから、あたしは。
「いえ、友達でも何でもありません」
とびっきりの作り笑いで、そう、言ったんだ。
雅也は一瞬、目を丸くしたが、直ぐ、女の人に視線を戻し、何かを話していた。
友達でも何でもありません、か。
自分で言っといて、悲しくなった。
少しだけ、目尻が熱くなる。
涙がでるのかな。
雅也だけは、と、思っていたけど、やっぱり、前の彼氏と一緒だったのかな。
羨ましいほど、目の前にいる二人はお似合いだった。
あたしが入るスペースなんて、無いぐらいに。
あたしは、「このままこの部屋に居続けたら駄目だ」と思い、無言で部屋を出て行った。
薬臭い真っ白な廊下。
だけど今のあたしには、真っ黒にしか見えない。
突然、扉が開き、雅也が出てきた。
パタン、と扉が閉まり、扉に寄り掛かる雅也は、顔が俯いていた。
「…まさ――」
「どうして、来た」
どうして?
それは。
「…だって、デート中だったんだよ!?それにいきなり着信がなったと思ったら、走って行っちゃって……。追って来れば病院で、しかもベッドに女の人が寝てたし…」
「…」
「…指、絡めて、手、繋いでたし…。あたしだってしたことない繋ぎ方だった…」
「お前の言いたい事は、それだけか?」
「え…」
無表情をした雅也は初めてだった。
雅也はあたしを軽蔑した目で睨んだ。