恋結び【壱】


最後に見た雅也は、“欲”にまみれた、前の彼氏と同じ目をしていた。

浮気されて、利用されたいだけ利用して、用件がすんで都合の良いときにあっさりと終わりを告げる。

また、この落ち。

あたしの身も心もボロボロになっていく。


雅也はまた個室に入っていく。
そして扉を閉める前に何かを思い出し、あたしを見た。


「二度と面、見せんな」


あたしの恋心は砕けた。
閉まった扉を見詰めながら、崩れ落ちるように座り込む。
扉の向こうからは二人の声がする。


終わったんだ。

あたしはなんとも言えない解放感に包まれる。
だけど……。

「…ぅ…ふぅ…」

涙は嘘をつかない。
悲しくて、悲しくて。

大好きだった人に言われた言葉はあたしの心を刃物でえぐって。
最後には最低な言葉を吐き捨てていった。


あたしはこれで学習した。

もう、彼氏なんかいらない。

“男”なんか、ただの変態に過ぎない。

“恋”なんてしない。


そう、決意し、立ち上がり病院を出て行ったんだ。




―――…



「…だから遥にも、中々言えなかった……」

「……裏切られたら、悲しいからですか?」

あたしはコクンと頷くと、右手で左手を包んだ。
遥はそんなあたしを見て、優しく微笑んだ。
そっと肩に回った遥の大きな手が、あたしを自身の方に引き付けた。

「…大丈夫。俺は君を裏切らない。…ううん、裏切れないんだ…」

あたしは遥の言葉が理解できなかった。
ほのかに香る遥の匂いは、あたしの心を大きく揺るがす。

『裏切らない』

どうして、そんなことが言えるのだろう。
わからない。

「で、話しは別ですが、先程どうして泣いていたんだ」

「話して、無かったね」と、あたしは言い、遥に話した。


「あたしには婚約者がいるみたいで。その婚約者は最初、優しくてかっこよかったんだ。だけど強引で、いきなり…キスだってしてきて…。さっき、遥の名前を呟いちゃって、そしたら怒られて――」

「結局、泣いた、と」

「そんなんじゃない!…だけど、凄く怖かった……」


“奴等”と同じかと思って逃げたかった。
ただ、それだけ。

すると遥は妖艶に、怪しげな笑みを浮かべ、あたしを自分の胸に、抱き寄せた。


「で、どうして君は俺の名を呟いた?」


遥の唐突な言葉にあたしの顔は赤くなっていった。





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