恋結び【壱】


「さて、これからどうしますか」

あたしと遥は、踊り場のところにブラブラと足を流しながら、月を見ていた。

「…あたし…帰らないもん」

ボソッと呟く。
如何にも嫌そうに言うあたしを見て、遥は吹き出した。

「何が可笑しいの」と、遥を睨み付けた。
それを見て遥は更に笑いを増した。
頬を膨らますあたしに気を遣ったのか、笑いを堪え、あたしの頭を撫でた。

「…ごめんね。だけど、笑うしかないから」

そう言うと遥は微笑み、頭を撫でていた手をあたしの後頭部を押さえ、自分の方に抱き寄せた。

「…ぁふ!」

結構な勢いだったため、あたしは変な声を漏らしてしまった。
そして、ぎゅっと抱き締めると、あたしの背中をさすり出した。
まるで何かを探るように。

嫌な予感がした。
とっても大変な、とってもヤバい、事が…。
そんな予感が。

遥の手はあたしのパジャマの上からでも分かる、ある、出っ張りに触れた。

そして――


パチン。


金属っぽい音が、響いた。

「っ!!!???」

胸元に解放間が生じる。
締め付けられていたのが一気に緩まった。

あたしは遥を恐る恐る、見てみようと顔を上げる、と。

目に映るのは、目を細め、怪しげな笑みを浮かべた遥。
美しいぐらいに色っぽく、女のあたしでも憧れるその姿。

「何か?」

まるであたしをからかうように、言葉を吐くと、前にボタンがあるあたしのパジャマを確認する。
胸元にあるボタンに指先を当てる遥。

あたしはその手を振り払い、力一杯遥を睨んだ。
遥は小さく笑う。

「これが男の“本能”ってやつだよ」

「最っ低!」

頬がじわっと熱くなっていく。
身体の奥底から熱が引き出されるみたいに。

男はみんな“欲求”だけでひとをあしらうもの。
今までの奴等が、その例だ。
ただ自分を満たすために女を手に入れる。
その後……使用済みにして捨てて行く。

最低な生き物だ。


赤みを無くしたあたしの頬は気味が悪い程に冷たくなっていた。
それに気付いた遥は、あたしの身体を抱いた。

強く強く強く、抱き締め。
ポツリ、あたしの耳元で囁いた。


「……俺を受け入れてはくれないかな…?」



遥の言葉はあたしの胸に、心に、身体に、深く染み込んだ。



「……受け…入れるよ…?」


そう言ってあたしはきつく遥を抱き締めた。
遥の身体は、温かかった。






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