恋結び【壱】
重なった身体から感じる体温が、心地好くて、「ずっとこのままで」と、思ってしまう。
遥の背中に回した手に力が入り、離れたくないと、主張する。
だけど遥は何も言わずに顔をあたしの肩に埋めた。
さらさらの髪が、あたしの頬に少し当たる。
遥の匂いが強くなる。
そして、安堵させてくれる。
温かい。
気持ちがいい。
このまま、寝てしまいたい。
あたしの瞼は垂れてくる。
そっと目を閉じると、そのままあたしは睡魔に襲われ遥の胸の中で意識を手放した。
―――…
夢を見たのかもしれない。
あたしと、遥の。
だけど内容は悲しくて、切なくて。
また、あたしの前から大事な人が居なくなってしまったような夢だった。
具体的には覚えていない。
「ん…」
目の前には見慣れない天井。
翔太くん家の天井でもなく。
木材だけど何かが違う。
あたしは身体を起こそうと試みる、が。
「…ぬぉっ」
何かがあたしを制する。
さて、何だろうか。
そーっと腰にある何かを見てみた。
それは。
「…おや?起きましたか」
「はっ、遥!!」
あたしを優しく包み込む遥の腕だった。
あたしは必死に逃れようとするが遥は不気味に笑いだし、よりいっそう抱き締める腕を強めた。
「のぁっ!!」
「何とも間抜けな声だね」
そう言って遥は怪しげに笑っていた。
目が覚めたら、見知らぬ天井を目の当たりに。
起き上がろうとしたら、遥の腕の中で。
あたしたちを包み込む、温かくて柔らかい布団。
要するに、あたしは…。
「…遥と一夜を共に過ごしてしまったのか!」
「その通り」
「……」
「あ、黙った」
え?
え?
あたしは…あのまま眠り…。
遥の腕の中で寝た!?
「うわぁぁぁぁあ!!」
遥は何も無かったようにニコニコし、布団から出て行った。
「やれやれ」
頭を抱え込むあたしを見て、遥は微笑する。
着物を着ると遥は、「さぁ、帰りますよ」とあたしに微笑みかける。
歩く遥にあたしは慌ててついていった。