恋結び【壱】
この時、あたしにも何が起こったのか分からない。
いきなり鬼が空中に浮いて、凄まじい勢いっ道路に叩き付けられ、ナイフは音を立てて道路に落ちた。
「ふぅ…」
遥は手を叩き、あたしの方へ歩み寄る。
「遥…」
「美月ちゃん大丈夫ですか?」
遥の口調はビックリするぐらい、さっきとは別人だった。
穏やかな口調に柔らかい笑顔。
あたしの大好きな遥だった。
けど。
「その格好、癒されますね」
「っな!!!」
やっぱり、変態だった。
その後、あたしはちゃんと浴衣を気直し、警察へ電話をした。
連続殺人事件の犯人《ネモトカズキ》は刑務所に行き、全国的に安堵の声があげられていた。
テレビのニュース、インターネットのホームページ、ラジオ、新聞などで報道され、なぜかあたしが捕まえたと、されていた。
取材やテレビ出演を申し込まれたがあたしはキッパリ断り、警察官からの表彰だけされて、この事件は終盤を迎えた。
「じゃ、あたしらは帰るわ」
「バイバイ!美月!」
「バイバイ」
それから花恋と美波は帰り、あたしには平凡な日が待ち受けていたのだ。
「美月ちゃん、大変だったね」
「うん…。ちょっと疲れちゃった…」
あたしは遥の隣にいる。
二人で踊り場に腰を掛け、緑の木を眺める。
普通の木なのに、なぜか特別に見えるのだ。
遥と見ているからかな。
「じゃあ、頑張った美月ちゃんにご褒美をあげないとね」
「ご褒美…?」
「うん」
そう、遥は微笑むと、自分の口に何かを放り投げると口の中で何かモゴモゴした。
そして、あたしに口付けをした。
「ん…」
甘い匂いがした。
すると、遥の舌があたしの口の中に滑り込み、何かをあたしの中に入れた。
そして唇は離れる。
と、あたしの口の中にはあめ玉が一つ。
口一杯にその味は広がった。
「どう?」
「…甘い…」
「じゃ、俺にも…」
またあたしたちは口付けをした。
口の中に遥の舌が入り込みコロコロと飴が転がる。
水っぽい音が異様に響いて恥ずかしかったが、あたしは遥の思うがままに身を委ねた。
――――この時、翔太くんが見てるなんて知らずに…。