恋結び【壱】


「…っ…」


どうしてだろう…。
どうしてこんなに胸が高鳴り、胸の底から熱が引き出されるの…?
この上に、何があるっていうの?

あたしは石でできた階段を見つめた。
けっこうな数の階段。
何段あるんだろう。

あたしは息を飲む。

「……この上に、何が…」

あたしは息を殺して、石段に一歩足を踏みいった。
ドクドクと鼓動が跳ねて、息を上手にすることを制する。

もう一歩、もう一歩と、足を進めていく。
風があたしの背中を押す。
「早く、着きたい」そう思うのに。

なぜだろう?
心の隅で、「行くな行くな」と何かがざわめく。
無理矢理何かが引き出されていくような感覚がよぎる。

「――…!」

あたしはあと少しのところで、両足を揃え、立ち止まる。

なんで?
それは…。

“彼等”の言葉を思い出したから。


『もう飽きたんだよね』
『つまんねぇ』
『二度と面、見せんな』
『お前なんかいらない』


大丈夫。
大丈夫。

もう過去なんか…。

…嘘つき。
本当は大丈夫なんかじゃない。

あと、少しなのに。
てっぺんはあと少しなのに。
足が震えて、前に進みずらい。

だけどあたしは歩きづらい足を踏み入れる。


すると―――







カラン、カラン。







「……っ!!」



また聞こえた、鐘の音。
近い。
今度は近い。
このてっぺんから。

あたしは休む間もなく、てっぺんまでかけ上がった。


「はぁ、はぁ…」

少し息が上りほんのり涙目になる。
あたしは目をこすり、息を整え、前を向き歩き出そうとした時―――


「…ぁ」


目の前には、大きな神社。
真っ赤な鳥井が参道をまたぐ。
参道を真っ直ぐ行ったところに、大きなお賽銭箱と、大きな鐘が見えた。

あの鐘だったんだ…。
さっきまでの音は。

あたしはどこかホッとして参道を進む。
お賽銭箱の奥には“舞”を踊る場があった。

「ん?」

“舞”を踊る場の扉にもたれる、人の姿があった。

誰だろう。
不審者とかかな?

あたしは恐る恐る、近づいてみる。
すると。


「…あ…」


そこには不審者ではなく、黒い和服を身に纏った――





青年だった。






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