出会えてよかった[短]
いつもの説教もなんか笑える。

あの日から、こんなに心に余裕持ったことなんかなかった。


「おっ…おはよ。」


いつもは明るいあいつも、今日は控えめ。


まぁ昨日の今日だもんね。


仕方ないか。


「おはよう明美。」


そんなに驚かなくても良いじゃん。


「最初の授業なんだっけ?」


「数学だよ。」


「ねぇ明美。」


「何?」


「約束ってなんだっけ?」


「ひどくない?」


そう言って明美は笑った。


「受験の日。消ゴムを忘れた私に、葵は、二つ持ってるからって貸してくれたの。でも葵の机に消ゴムなんかなくて、消ゴムの部分のかけたシャーペンが2本転がってた。」


「カンニングしたのか?」


「違います。休み時間に見たんです。それで、帰るときに合格して、同じクラスになれたら絶対に友達になろうって約束したの。」


全然記憶にない。


まっいいか。


「そうだったね。」


「にしても急に態度変わったね。なんかあったの?」


ねぇ…あんたは、知ってる?


たった一日…それもほんの何時間かで、人の心を、開ける人間がいることを。


私は知らなかったよ。


あいつ…ううん、あの人に会うまでは…。
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