俺と貴女を繋ぐ場所



「本、返しに来た。」

俺が一声そう言うと、小日向は顔を上げた。その顔は少し驚いたような表情をして。


「あ、の…、もう読んだんですか?」
振り絞るように喋る小日向。


「あぁ、読んだ。また違うの借りてく。」

俺の応えに少し目を見開き、更に驚いたような表情を見せた。

「あの…、本…好きなんですか?」

必死に会話をしようとする小日向の姿が可愛く思えて、俺は照れ隠しで返事は声には出さず、ただ頷いて見せた。

「明治・大正の文豪、得に森鴎外と芥川龍之介が好きだ。」

俺の事を少しでも知って貰いたい。…何故かそう思い、好きな作家の名前を言った。


「私も、最近の小説とか…よく読みますけど、その時代のも好き、です。樋口一葉さんとか…。」

もしかしたら小日向は俺の好きな時代の作家はあまり知らないのかも知れない。
でも、少しでも俺を思って、気を利かせて話を合わせてくれているかもしれないという事を嬉しく思った。


「あの時代の文豪の作品は読んでて飽きないからな。」
嬉しくて中々良い言葉が出なかったが、気持ちを悟られたくなくて冷静を装って応えた。


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