ショコラティエの恋人
「葉子さんは本当に教えるのが上手いんだよ!俺みたいなアホなやつでもちゃんと高卒検定取れたから、ほのかちゃんもきっと大丈夫だよ!」
順が笑ってそう言ってみんなを笑わせた。ほのかもだんだんリラックスしてきたのか、くすくすと小さく笑った。
「じゃあいつから始めましょうか?私のところは時間割とかは何も無いから、朝でも夜でも好きな時間に来て好きな時間に帰っていいのよ。ほのかちゃんの都合の良い時間でね?早速明日から少しずつ来てみる?」
隣にいるほのはさっきまでニコニコしていたのに急に俯いてしまった。何か不安なことがあるのか、両手を膝の上でぎゅっと握りしめている。目には涙が溜まり、今にもこぼれ落ちそうだ。
「どうした?ほの?」
俺は隣に座るほのの背中を優しくさすりながら問いかけたが、ほのは唇を強く噛んでしまっている。
「ほの、大丈夫だから。思ったこと言ってごらん?誰も怒ったりしないから。」
辛抱強く背中を擦り続けていると、ほのが握りしめていた手をほどいて俺の着ているセーターをぎゅっと握り締めた。
「藤岡さん、すみません。ほのかはすごく人見知りで…。明日からは無理かも知れないですが、近々また伺います。」
「ええ、そうね!そうしましょう!ほのかちゃん、私ね、ほのかちゃんに教えられることがとっても嬉しくて少し先走っちゃったわね。ごめんなさいね。ほのかちゃんならいつでも大歓迎だから好きな時にまたいらしてね。」
藤岡さんはほのかにふんわりと笑いかけて声をかけてくれた。こんなに懐の深い人ならほのかを預けても心配ないな。
「すみませんが、今日はそろそろおいとまします。今日はいきなりお訪ねしてすみませんでした。夕飯、とても美味しかったです。ありがとうございました。また伺いますね。」
「ええ、もちろんお待ちしていますよ。」
「さ、ほの、家に帰ろうか。」
ほのはこくんと小さな子供のように頷いた。ほのはずっと俺のセーターを握っていた。
そのあと藤岡さんと順が玄関まで見送ってくれて、藤岡さんと順にお礼をして、俺達は家路に着いた。藤岡さんの家と俺達の済む家は思いの外近く、歩いたら15分ほどの距離だった。その15分間、ほのは一言も話さなかった。