ショコラティエの恋人


食事が終わって箸を置いた時、ほのかが少し緊張した面持ちで俺をじっと見た。


「どうした?ほの。」


「あの、あのね、あの、わたしねっ、」


ほのかはなぜかすごく焦っている。ぎゅっと肩をすぼめているのは、たぶんテーブルの下で手を強く握っているからだろう。緊張した時や不安なときに手を強く握るのは、ここ最近見つけたほのかの癖の一つだ。


「出勤までまだ少し時間あるし、ソファーで話そうか。紅茶、淹れてくるから先にソファーに座ってな。」


ほのかは固い顔でこくんと頷いた。


とりあえずほのかをソファーに座らせて紅茶を淹れる。ほのかの緊張した表情を見ていたら何だか俺も動揺してしまっていたようだと、紅茶の香りで肩の力が抜けてから理解した。


「ほの、紅茶入ったよ。とりあえず話す前にこれ飲もう。」


「ありがとう、ございます。」


ほのかの紅茶は牛乳たっぷりの甘めのミルクティー。ほのかはゆっくりマグカップを口に運び、ふぅふぅとしてからゆっくり紅茶を飲んだ。少し肩の力が抜けたのを見て安心する。


「ほの、何かあった?」


「あ、あのね、真人さんに、相談したいことがあるんです。…えっと、あの、」


ほのかはそれだけ言うと口ごもって俯いてしまった。何か悪いことなのだろうかと一抹の不安を感じる。


「ほの、何でも思ったこと言っていいから。怒ったり嫌いになったりしないから言ってごらん。」


幼子に話しかけるように優しく話すとほのかの体から力が抜けた。


ほのかは深呼吸をして胸に両手を当てると俺と視線を合わせた。


「あのね、わたし、お仕事をしたいんです。」


「仕事…?」


何を言われるのかとドキドキしていた俺は拍子抜けしてしまった。いや、ほのかが仕事をしたいと言うのも十分に重大なことなのだが。


「は、い。あの、それで、お仕事を探したんです。」


そう言ってからほのかはしゅんと俯いてしまった。


「わたし、小中学校しか行ってないから、中卒なんです。中学校にもあまり行ってないので勉強も出来ないし、物を知らないし。だから、」


強い光を宿した瞳が俺を見つめている。


「高卒認定試験を受けようと思うんです。」


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