ショコラティエの恋人
「高卒認定試験?」


「はい。それに受かると高卒と同じに扱ってもらえるんです。」


「うん。それは、分かるけど。」


少し戸惑いを見せてしまった途端にほのかの表情が曇る。しまったと思ったがほのかはさっと体を固くしてしまった。


固まったほのかの肩を抱き寄せ、額に唇を寄せる。


「ごめん、反対している訳じゃないんだ。」


俺はそっとほのかを離して、肩を抱いたままもう一度きちんと目を合わせた。


「反対しているんじゃない。ほのが新しいことに挑戦することには大賛成。高卒認定を取ることは必ずほのの今後の人生にプラスになるしな。俺はほののやりたいことを全力で応援する。」


ほのかの頬が少し緩んで、やっと体の力を抜いてくれた。ほのかの右手が左手をぎゅと強く握りしめていてほのかの左手は白くなってしまっている。力が緩んだところを見計らって、ほのかの左手を空いている自分の左手で包み込んだ。


「だけどほの、俺はほのに他の選択肢も色々あるってことを知って考えてほしい。例えば、夜間の高校に行くことも出来るし、ほのみたいに高校に行けなかった人のために開講してる高校もあるかもしれない。そういうところに行けば勉強だけじゃなくて友達もできるんじゃないかな。そういう可能性を捨ててほしくないんだ。」


ほのかは俺の腕のなかでこくんと頷いた。


「ん、いい子。」


ほのかの頭を撫でて額にキスするとほのかはくすぐったそうに笑った。


そうこうしているうちに出勤時間が迫ってきていた。鞄を持って玄関に向かうとほのが後ろからぱたぱたとついてくる。この光景も最近の日常になりつつある。


最初は新婚夫婦みたいでこそばゆかったが、今はもはやなくてはならない朝の儀式のようなものだ。


「帰ったらちゃんと話そうな。それまでにほのも色々考えておいて。」


「はい!」


そしてほのにキスをして俺は家を出た。


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