ショコラティエの恋人
「旨いっすね!ホントに旨い!こんなの久々に食べた。立花さん、ありがとうございます!」
夢中で食べる順を見ていると自然と顔が綻ぶ。雰囲気は全然違うが、美味しそうに食べるところはほのかと同じだ。
「俺、店長に会えて、この店で働けてホントに良かったです。」
「ん?そうか。」
「最初、店長に拾われて働く前にまず高卒資格取れって言われた時はこの人俺を働かせる気あんのかなって不安でしたけど、今はそれも俺のためだったんだなーってわかるし。今ちゃんと少しずつ仕事させて貰ってるし、俺、頑張って立花さんみたいな格好いい職人になりたいんです!」
夢を語る順は熱く早口で捲し立て、少し苦笑してしまったが、俺が置いてきてしまった少し恥ずかしいけどキラキラした夢をおう若者独特のオーラを持っていて眩しかった。
「そういえば、高卒認定資格って独学で取ったのか?」
「そんなわけないですよー。俺勉強全然出来ないし、高校にも一年ちょいしか通ってなかったんで全然独学では無理で。」
「どっか学校でも通って?」
「学校、ではないんですけど、隣街で店長の知り合いの女の人が俺みたいな奴のために高校卒業資格取るための勉強する教室開いてて、そこに通わせて貰ってました。」
「へぇ、今度そこ紹介してくれないか?知り合いが高卒認定取ろうとしてて、塾とか探してるんだ。」
店長の知り合いなら、その女性は信頼出来そうだ。何せ店長は人の選り好みが激しくて本当に信頼した人間としか付き合わないから。
「丁度今日はその人と会う約束してるんですよ。時々一緒にご飯食べさせてくれるんです。もし良かったら一緒に飯食いに行きませんか?」
「突然だけど大丈夫なのか?」
「連絡しておきますよ。」
順は人懐っこくにかっと笑った。
「じゃあ頼む。あ、ひとり女の子連れていっていいか?高卒認定取ろうとしてる子なんだけど。」
「もちろん!連れていったら歓迎してくれると思いますよ!…それって立花さんのコレっすか?」
にやにや顔で小指を立てて振っている。ほんと、憎めないガキだ。
「まぁな」
あっさり答えると誰も聞いちゃいないのにひゅーっと囃し立てている。チョコを作ってる時の真剣な奴とは別人だな、こりゃ。
丁度食べ終わっていい時間になったので俺は支払いを済ませて順と共に店に歩き出した。
「立花さん、ご馳走さまです!じゃあ今日は仕事上がってから7時に駅前に集合でいいですか?俺、連絡入れとくんで。」
「わかった。頼むな。じゃあまたあとで。」
丁度店につくタイミングだったのでお互いさっさと着替えて仕事に戻った。