小話帳
糸は解れて切れていく
なぜ、と問うて、答えてくれる人がいるのなら私はその人に問い続けたい。
私の目の前には愛しき人。繋がって、恋仲になった愛しき人
私は仕える城に拾われた身。孤児だった私を必要としてくれた忍び頭や仲間に心酔していたはずだった。
忍務には必ず一番に行くと言い、役に立つことを何よりも喜んでいたのだ。私は、
なのに。
寡黙で優しいこの人に惹かれた。この人といるときは優しい気持ちに包まれた。
ある日、普段はなかなかしゃべらない彼が抱き締めてきて好きだと言ってくれた。芯でもいいと本気で思った。私は、己の立場を忘れ、皆に内緒で彼と恋仲になったのだ。
「__、さん」
普段から表情を変えない人だ。でも今日は月明かりに照らされた顔が歪んでるように見えた。
「…私、信じてもらえないかもしれませんけど」
「…」
「あなたのこと本気で好いてました」
「…」
「死んでもいいと本気で思うくらい貴方を愛しておりました」
「…ッ」
「恋仲になれたこと、後悔していません。」
そう言って、私は彼の口に己のそれを重ねる。
表情を見ぬように後ろに下がる。
「…、そっちは」
「さよなら、__さん。愛してます。いつまでも」
そうして、私は崖から飛び降りた。
―糸は解れて切れていく―
(運命の糸でさえ、私たちを繋ぎ止めてはくれない)