小話帳
優しい裏切り者
恋仲が城の情勢を探るための裏切り者だと知って、冷静でいられる奴はいるのだろうか
初めて心から愛した人だった。それが、まるで泡のように夢のように弾けた
彼女が消えた崖まで近づき膝をつく。
私の思いを汲み取って、何も言わず側にいてくれる優しい人だった。
もとめることは、いけないことだったのだろうか。側にいて、と願うことすら罪だったのか
目の前はぼやけ、下を向くと土の上にポツポツとシミができていく。
ああ、泣いているのか
そう理解したとき、己の小さい声が大きく響いた。
ああ、私泣きわめいている
泣けない私を、表情の乏しい私の表情を引き出してくれる優しい人。
君がいなきゃ、明日からの泣き方も笑い方もわからない
―優しい裏切り者―
(感情という、もっとも厄介な優しさを残して逝くなんて)
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何も語らぬ寡黙で優しい武士。
それを支える年下の、意見をハキハキと言える彼女
唯一恋仲になる二人