小話帳
これが滑稽だと笑うなら
ある程度走ったところで足を止める。
わたしの思い人は、武士とはいえど優しく、医学の心得を持つ素敵な人だった。
「…、**ちゃん」
「あ、__君。見て。月がきれいだね」
はぐらかすように笑うと、その顔は寂しく歪んだ。最後くらい笑ってほしかったなあ
「__君。ごめんね」
「…え」
「君の優しさを、私は全て仇で返した」
「そんな、こと」
「君に殺されたっていいんだけど、貴方は優しいから…私の死をきっと引きずるでしょ?だからさ」
懐に入れていた苦無を首もとにあて笑った
「ごめんね、裏切って」
「待って!!!**!!!!!」
「大好き、さよなら」
力を入れて苦無をさし、ぐっと前に苦無をだす。
最後に見えたのは、己の首から吹き出した血と
悲しく歪む、愛しき顔
ごめんね、
私は裏切り者だから
―これが滑稽だと笑うなら―
(貴方を愛した私はこの世で一番の愚か者)