小話帳
君が望んだはずなのに
入学式、僕たちはまた出会うことができたというのに。
「えーと、このクラスの英語を担当します○○です。よろしく」
彼は僕に気づくことなく笑顔で授業を進める。
きっと彼の記憶の中にいない。かれは、今を生きている。
僕は前世は男だった。彼は上司で、僕は彼を先生と呼んでいた。好きだと告げたら、彼は抱きしめてくれた。そして、
『きっと私たちの恋は許されていないんだよ。だから、また次の時代で、お互い異性として出会おう。
約束だ』
と、僕が死ぬ前日で彼は甘くて残忍な約束を取り付けたというのに
英語をスラスラ読み上げる。
「**、ここ読んでみろ」
「!、は、はい」
不意に呼ばれた苗字。違うでしょう?違う。
貴方は僕を
"##(下の名前)"
と呼んでいたでしょう。
英文を読んでいた声が震えているのを悟られないように、教科書を握る手に力を込めて読み上げた。静かな教室に響く僕の声。
読み終わり座ると、彼は何事もないように
「ありがとう、**」
といって授業を始めた。
「(貴方が望んだから女に生まれてきたのに、これじゃ意味がないじゃないか)」
-君が望んだはずなのに-
(どうして僕が君を待っているの?)
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