parallel
 


顔前面にもふっとした感触が広がる。

甘酸っぱくて、でも優しい香りが頭の中に広がった。

手に掴んでいた手すりだけでは支えきれなかったらしく、既に私のその手はぶつかってしまった人の腰に回っていて。


状況は把握できた。

誰かにぶつかられた拍子に私も他の人にぶつかってしまい、更にはバランスを崩して抱きついてしまったんだ。



「っと、あの……大丈夫?」



パッと意識が戻ってきて、急いでその人から離れる。

目の前には黒いブレザー。


心臓が急にドキドキし出して、身体がみるみるうちに熱くなっていく。

もしかして……そう思いながら顔を上にあげた。



視界に入ってきたのはあの顔。

毎日少しでも近くにいたいと思い、会える度に嬉しいと感じていた、大好きな彼が目の前にいた。



 

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