バケバケ2
「残念ですが、理想の世界にあなたは行けませんよ。」
倉庫内に、冷たい声が響く。
この声は…
「エレジーは逃してしまいましたが、これだけの力があれば十分です。」
栗色の髪に銀縁のメガネの青年が、倒れた男の後ろに立っていた。
「時雨…」
「また会いましたね。」
「お前…バケバコを使って何をする気だ。」
「別に話してもいいんですが…僕も忙しいんで今日はもう帰りますよ。」
時雨は俺たちに背を向ける。
「待て…!」
「僕のことより、自分の心配をした方がいいんじゃないですか?」
「…?」
「ほら…後ろ。」
時雨は振り返りながら俺の背後を指差す。
「シイ…逃げて……」
「…エレジー?」
エレジーは体に黒い染みのようなものが現れていた。
髪も黒いままで、綺麗な青色だった瞳は真っ赤に染まっていた。
別人のように。
エレジーの手には鏡の短剣が握られていた。
その刃先は真っ直ぐに俺を捉えていた。
「エレジー、どうしたんだよ?」
「力を使った反動…身体が言うこと聞かないの…!」
エレジーの目から涙がこぼれて、灰色の床の上に落ちた。
「私はもうすぐ自我がなくなって、そしたらきっとハイネのことも殺してしまう。でも私はハイネを守りたいの。だからシイ、私のお願いをきいて…?」