バケバケ2





家に帰ると、男の人の靴があった。


私の家には母と私しかいない。


誰かお客さんだろうか。








「ただいまー。」


私は泣いていたことがバレないようにわざと明るくリビングに入った。







「洋子、久しぶりですね。」


リビングのソファーには懐かしい顔があった。


「お兄ちゃん!」


銀縁の眼鏡に栗色の髪、モデルのように整った顔…


自慢の兄の姿がそこにあった。


「今日は洋子に会いに来たんです。この間会った時はゆっくり話せなかったので。」


「そうなんだ、ゆっくりしていってよ。…あれ、お母さんは?」


「さっき夕飯の買い出しに出かけましたよ。」


「そっかー!」


「洋子。」


「なに?」








「何かありました?」








眼鏡の奥の瞳は私を見透かしていた。


昔からそうだ。


お兄ちゃんには隠し事ができない。


明るく振舞っていたつもりでも、やはりお兄ちゃんは誤魔化せなかった。


お兄ちゃんなら…相談してもいいかな。







私はお兄ちゃんに話すことにした。








「好きな人にね、突然別れを告げられたの。どうしてかは分からないけど、たぶん私が原因なんだと思う。」


「そうだったんですね。」


「私、どうしたらいいのか分からなくて、結局何も言えなくて…」


「辛かったでしょう。」


お兄ちゃんが私の頭を撫でる。


「洋子。その人が大切な人なら、伝えたいことがあるなら、ちゃんと伝えないとダメですよ。伝えたくても伝えられなくなるかもしれないから。」


「うん…。」


お兄ちゃんの言葉はお兄ちゃん自身に発せられている気がした。





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