バケバケ2
短剣が俺の頬を掠める。
「真剣にやれ、シイ。」
灰音の動きには何の迷いも感じられず、ただ俺だけを狙っていた。
彼は、エレジーを守るために戦っているんだ。
灰音の少し後ろで鏡を持ったまま、エレジーは灰音の後ろ姿を見つめていた。
エレジーは今、何を思っているのだろう。
灰音は動きを止めることなく、俺に迫る。
迫り来る剣をかわしながら、俺は応接間の隅に追い詰められていた。
灰音が俺に向かって短剣を振り下ろす。
俺は目を閉じた。
「何でだよ…」
短剣は俺の首から少し外れた壁に突き刺さっていた。
「お前馬鹿じゃねーの、ここで死んだら洋子は救えないんだぞ。」
「灰音…?」
「それなら!…なんでエレジーは死んだんだよ!エレジーの死を無駄にするな!!お前がここで死んだらエレジーの死が無駄になるんだぞ‼︎」
俯いた灰音の表情は分からない。
だけど、泣いている気がした。
「俺は、潔くエレジーを諦めるなんて出来ない。エレジーはこうしてここにいるんだから。もう失いたくない…」
灰音の手が短剣から離れる。
「でもこんなの間違ってる!わかってんだよ‼︎」
灰音は俺を見上げた。
「ここで、殺してくれ。」