バケバケ2
ここから洋子の家までは五分ほどだ。
急いで靴をはき、外に出ると、後ろからのそのそと敷島が出てきた。
「まってくださいっス、シイ先輩…」
俺は鍵をかけると、敷島の腕を抱え、引きずるように洋子の家へ向かった。
「なんなんスか、もう。誰なんスか洋子さんって」
「俺のもと持ち主だ。」
「シイさんの?」
「俺がバケバケだったころのな。」
「どうして洋子さんのとこへ?」
「洋子はバケバケを惹き付ける強い力を持ってる。赤月姫も洋子の存在に気づいてるかもしれない。」
「洋子さんのところに姫が…」
「あぁ。可能性が高い。とにかく洋子が危ない。」
洋子の家が見えてきた。
洋子…頼む、無事でいてくれ。
ドアのチャイムを鳴らしている余裕はなかった。
玄関のドアを開けると、鍵はかかっていなかったので、そのまま流れ込むように家の中に入った。
「シイくん?」
洋子の母が驚いてリビングから顔を出す。
「久しぶりね、さっき…」
「洋子は?!」
息を切らしながら、洋子の母の言葉を遮るように言う。
「どうしたの、一体。洋子ならさっきシイくんにお昼持っていってあげるって、シイくんのアパートに向かったわよ。」
「え…」
「行き違っちゃったのね。洋子がどうかしたの?」
行き違った…
まずい、洋子は今外か…
「ありがとうございます。」
「あ、シイくん!」
俺はすぐに洋子の家を後にした。