バケバケ2
でも、思うように足が進まない。
こうしている間にもと思ってはいるのに…
自信がなかった。
気がつくともう、あいつの住んでいるアパートのすぐ前まできていた。
行かなきゃならない。
足を一歩踏み出す。
行くんだ…
「シイくん。」
冷たい声がした。
俺は本能的に声の方を振り返り、距離を取った。
「嫌ですね、そんなに身構えて。それじゃあ僕が悪者みたいだ。」
俺の目の前に、栗色の髪に銀縁の眼鏡をかけた人の良さそうな笑顔をした青年が立っていた。
「かなり久しいですが…僕のこと、覚えていますか?」
青年は微笑む。
忘れるわけがなかった。
10年前と変わらない、作ったこの笑顔も、この冷たい声も。