月下の幻 太陽の偽り (仮)
母さんはそんな言葉から昔の話を始めた。

「私達が結婚したのはもう21年も前だけど、父さんも私も中々子宝に恵まれなくてね。私が病気になったのが原因で子供が生めない体になっちゃったのを知ったのが歩美と出会う1ヶ月前の話。」

「私とは何処で出会ったの?」

「式町の教会。教会の孤児施設よ。」

式町…

その名をこの二週間弱の間に何回聞いたか分からない。

式と私の関連性には何か因縁めいた物を感じた。

「私達が歩美の存在を知ったのは本当に偶然だった。施設前でだっこされてるのを見ていて羨ましくて話しかけたのがきっかけ。」

「だっこしてる人に聞くと、その子は施設でたった一人の孤児だって言ってた。あの時代でも治安が良い式町だったから、孤児は珍しかったんでしょうね。」

「その施設の人は、誰の子供とか言わなかったの?」

「言わなかったと言うか、解らなかったみたいね。施設の人の話だと突然やって来た子供だって言ってた。」

「突然やって来た?」

「うん、私も詳しい事は解らないけど…」

「…」

そんなボウフラのような感覚で子供は現れない。

そこに何かがあったのは言うまでもないだろう。

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