月下の幻 太陽の偽り （仮）

いつまでもこの場所に留まる訳にはいかず、私はその場をあとにし次に教会に向かった。

私はこの厳格な雰囲気がちょっと苦手だ。

教会のインターホンを鳴らし、しばらく待っているとガチャっと重々しい鍵の音がして扉が開いた。

丁寧な挨拶をし出迎えたのは少々長身で初老の男性だった。

「はい、どちら様でしょうか？」

白髪が目立つその男性は穏やかなバリトンボイスを私に向けてきた。

「あの、初めまして、私は粉踏と言います。」

「粉踏さん？」

男性は私の名前を聞いて、少し考える風に小さくうなっていた。

しかし、すぐに表情を変え私に視線を向けた。

「朝倉晃二（あさくらこうじ）です。何かご用がおありですか？」

「一つお聞きしたいんですが、この教会の隣のあの施設は今は使われていないんですか？」

私は指を指してそう聞くと晃二さんは施設を見ながら言葉を発した。

「いえ、閉めている訳ではないんですよ。ただ昔から入居者が極端に少なくて施設の役目が果たせていないのです。」