血も涙もない【短編集】
お兄ちゃん、あのね。
「お兄ちゃん…今日も帰り遅いの?」
「あぁ、悪いな」
お兄ちゃんの大きな手があたしの頭を撫でる。
機嫌をとってにこにこ笑ってれば通用するとでも思っているのね。
「本当、ずるいね」
「不貞腐れんなって、夜尋(やひろ)がそんな可愛い顔でいたら、俺行けなくなっちまうだろ」
「じゃあ行かなきゃいい」
あたしは、お兄ちゃんの服をきゅっと摘まんで、俯いて見せる。
可愛い妹がここまでおねだりしてるんだから、今日くらい…今日くらいは家に居てよ。
なんて、思いながら、そっと顔を上げて上目遣いをすると、ふわっとした笑顔が近づいてきて、
そのままあたしのおでこにキスをした。
「じゃ、行ってきます」
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