血も涙もない【短編集】




「成仏しないと、生まれ変われない。でも、僕どうしてもお母さんが心配で、ずっと成仏出来なかった」


でもね、と可愛い笑顔で空に両手を広げて少年は言った。


「お母さんの傍には海羅(かいら)が居る」

「海羅?」

「僕の妹。四歳になったばかりなんだ!すっごくかわいいんだよ」

「そっか」

「うん!お母さんには海羅が付いてる。大丈夫だよね。僕、これから最後にお母さんの顔見てきて、そしたらちゃんと成仏するっ!それで、早く生まれ変わって、お母さんと海羅に会いたい」


そして、親指を立てて
にひっと笑顔を見せる少年。



あたしも笑顔を返そうとした時には、もうそこに少年の姿はなかった。


そして、その瞬間。

何処からか懐かしい匂いがした。翔瑠の香水の薫りに似てる。




「…翔瑠。あたしの近くにいるの?泣いてたから心配で成仏出来なかった?」



バカね。


あたしなら大丈夫だから。



「さっさと、成仏して、
さっさと、生まれ変わって…」



さっさとあたしに会いに来て。


それまでは、あたし生きて待ってるから。






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