血も涙もない【短編集】
止まった心臓がドクンと再び音を立てた時には、もうお兄ちゃんの姿は無くなっていて、パタンとドアの音だけが新鮮に聴こえた。
「お兄ちゃんの、バカ」
今日はあたしの誕生日なのに、忘れてる。
そんなに大人の女がいいの?知ってるよ。お兄ちゃん、彼女が出来たんだよね。
最近やたら携帯をいじるし、電話の度に席を外すから、この間こっそり携帯を見たんだよ。
そしたらさ。
待受画面に目の大きい女の人と笑ってるお兄ちゃんが居たよ。笑ってた。好きなんだね。悔しいよ。
メールも“七瀬恵実(ななせめぐみ)”って女からばかりだった。
──殺意にも似たこれは嫉妬。
それとも、愛なのか───