血も涙もない【短編集】
その時、浮かんだのは
血に狂った恵実の顔。
こんなことしてるのがバレたら、俺は血を全部吸い取られて、冷たい人形になっちまう。
「…先生?」
「え、あ…わりぃ」
気付けば突き放していた。
夜尋が気まずそうに俺から目を反らす。
その時、俺の携帯が震えた。
着手は───恵実からだ。
「出ないの?」
「いや、いいんだ」
タイミング悪すぎだろ。
今ここで着信って…
俺神様に嫌われてんのかな。
変な汗が滲み出してきた頃、夜尋が不機嫌そうに俺の手から携帯を取り上げた。
「出ないならあたしが出る!」
「ちょ、待て」
「……!!」
携帯を開いた夜尋は、
目を見開いて固まる。
そして、徐々に顔が青ざめていくのがわかった。
何か言いたそうにしているがふるふる震えた唇が思うように動かないようだ。