血も涙もない【短編集】
俺は固まった夜尋から携帯を奪い返すと、着信に応える。
「もしもし……あぁ、今日は都合が悪い。明日にしてくれ」
携帯の向こうからは、
夜尋の子供っぽい声とは対照的な色気のある声が俺の鼓膜を震えわせる。
「あぁ、恵実も気ぃつけろよ」
「……っ!」
俺の口から出た恵実という名前に夜尋は眉をぴくりと動かすと、突き刺さるような殺意の眼差しで俺を見る。
俺はその目から視線を反らせず、「またな」と言って電話を切った。
目を反らせば殺られる。
そう錯覚されてしまうほどの殺気を放つ夜尋に、俺は心臓を掌で遊ばれている気分だった。
「その人、お兄ちゃんの、彼女」
「………あぁ」
「……知ってたの?」
「あぁ」
「じゃあさ、これも知ってる?」
「……」
「その人がお兄ちゃんを殺ったんでしょ?」
もう確信したかのような言い方だった。