血も涙もない【短編集】
ピリッと首筋に痛みが走る。夜尋が持つナイフが俺の皮膚を切ったようだ。
「女を呼びなさい。じゃないと、この首が飛ぶわよ」
「……そうか。殺りたきゃ殺ればいい」
「怖くないの?」
「はは。俺だって恵実と知り合った時点でお前の兄貴と同じ運命さ」
「死ぬ覚悟は出来てるってことね」
「あぁ、そうだよ」
………嘘だよー!!
大嘘だよー!!
死ぬ覚悟?はいー?
そんなもん持ち合わせちゃいねぇよ!バーカバーカ。
死にたくねぇーよ!
さっきっからチビりそうだわっ!
もうそれ以上首切るなよ?泣きそうだからな!
「へぇ、先生もなかなか肝が座ってるのね」
「お褒めの言葉有り難く頂戴致します」
肝座ってなんてねぇよ。
だから言ってんだろ。
さっきっからチビりそーだぜ!!
──でもな、俺なんとなく分かるんだ。
お前は俺を殺れない。
だって、お前にとって俺は唯一秘密を知る存在。特別な存在。
って自意識過剰かなー。
でも、もしお前がここで俺を殺せば、俺たちが出会う前のあの頃に戻るんだぞ。苦しむのはお前だ。