血も涙もない【短編集】
「ごめん。先生」
少しの沈黙の末、口を開いた夜尋は伏せ目がちにそう言った。
「あたしは相手が吸血鬼だろうと、先生の彼女だろうと関係ない。この憎しみはその女が死ぬまで消えないの」
「そうか」
「ごめんね、先生の大切な人だけど、殺るよ」
「あぁ、構わないよ」
アイツにとって彼氏ってのは所詮、腹を満たす餌に過ぎない。
彼氏なんて俺以外にもたくさん居るんだろうし、実際、夜尋の兄貴もその一人だったんだろう。
「殺りたきゃ、殺りな」
「え?」
「もともと俺たちの間に愛なんてもんは存在しない。喰うか喰われるか、ただそれだけだよ」
「じゃあなんで付き合ったの?」
「え?そんなの決まってんだろ」
「へ?」
「いい体してるからだよ」
全力で引かれた、と顔だけで分かった。
うげっとでも言う顔だ。
不味いこと言ったかなー。