血も涙もない【短編集】
首筋に噛み付かれたあの瞬間の痛みが甦って、その場にしゃがみ込む。
キモチワルイ…
手で口を抑えながら、小さくなる俺の体を世話しなく車が通り抜けていく。
誰にも見えない。
誰にも触れられない。
誰とも話せない。
俺はひとりぼっち。
全て、あの女のせいだ。
ずるずると人の血を吸い付くし、抵抗する俺の腕の骨までも砕きやがった。
人間じゃない。吸血鬼。
血に飢えた目。
そんな目で俺を見るな。
見るな。見るな、見るな!!
「んがあぁぁあぁあぁぁ!!!!」
誰にも届かない憎しみと、悲しみが俺の中でぐちゃぐちゃに混ざりあって、形となった叫びは誰の耳にも入らない。
もうアイツに好きと言えない。
もうアイツを抱き締められない。
もうアイツの涙を拭けない。
と、その時だった。
鉄の匂いが鼻の奥をくすぐる。微かにローズの香水も混ざっていた。
俺は咄嗟に顔を上げた。
あの女の匂いだ。
近くにいる。