血も涙もない【短編集】
俺は倒れた状態のまま女を見ていた。ヒールをカツカツと音を立てながら誰かの血を吸いに行く女の後ろ姿を、悔し涙を流しながら、ボヤけるこの瞳で見えなくなるまでずっと、ずっと…
「…ちっくしょお」
地面を殴ろうとして、
うまく殴れなかった。
傷がない。痛みがない。
あー、俺は、物に八つ当たりさえ出来ないんだな。
気付いたら、俺はそのまま眠っていた。立ち上がる気力もないまま、心ばかりが腐っていくこの世界で、唯一、目を瞑って夢を見れば、彼女に会える。
ずっと、こうしていよう…
「…たすけて」
誰かの泣き声と、ぎゅっと服を掴まれる感覚。
服を掴まれる?
んなバカな。
俺に触れるヤツなんて
居るわけないだろ。