血も涙もない【短編集】





その傷口に、血が騒ぐのが分かった。

血が欲しい。
首筋に吸い付きたい。
骨の髄までしゃぶりたい。

気付けば、先生の膝の上に股がっていた。ソファが軋む音がしたけど、あたしの耳には、先生の脈打つ音の方が遥かに鮮明だった。


「ばか、離れろって」


首元に顔を埋めようとするあたしの体を、先生が両手で押さえる。


「やばい、ってその、顔。いつもと違う」


珍しく強張った顔をする先生がそこに居た。

自分でも分かっている。
いつもと違うことくらい。
血が、もっと。
先生が、もっと。
欲しくてたまらない。


「めぐ、み…っ」


先生の顔が恐怖で歪んでいた。
変態なことを考える余裕すら、
体を撫で回す余裕すらないほどに。



そんな目であたしを見ないでほしいと思った。
そう思っている自分に驚いた。
やっぱり、恋をしているのだろう。あなたに。

そして、今あたしは、
あなたの血に餓えている。






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