血も涙もない【短編集】
ザシュッ────
ゴロンと床に女の笑顔が転がって、噴水の様な血渋きが女の首から吹き出る。
そのまま体がバタンと倒れ、あたしの視界から消えた。
そして、鋭く尖らせた手は女の血の生臭さがこびりつき、その血を舐めることすら拒みたくなるほどだった。
「吸血鬼ってね、そう簡単に死なないのよ」
転がった女の笑顔に声をかける。死んだことすら気付かぬうちに体と首とで真っ二つにして殺ったんだから痛みなんて無かったんでしょうね、感謝しなさい。
あたしは血の付いた手を大きく振ると、今度はその手で先生の首を掴んだ。
何が遭ったか分からないと言った顔をする先生にあたしは微笑みながら言う。
「あんたはじっくり殺してあげる」
「──ひっ」
情けないほどに涙を流しながらフルフルと唇を震わせる先生をあたしはどんな顔で見ていたんだろう。
その時はそんなことを考える心すら失ったかのように、あたしは先生を貪った。
うめき声も、叫び声も、
泣きながら足掻くその姿さえも無視して、あたしは先生を、
「多分、愛してた」
殺しました。