高野先生の腕のなか



「落ち着くまでここにいて良いから、」


出されたコーヒーの湯気をほう、と見つめていると、心は落ち着いてきて、改めてフられた事を実感し、さっきとは違う静かな涙がつ、と頬を伝った。


「俺で良かったら、聞くけど」


私がそちらを見ると、高野は慌てて「あ、言いたくなかったら良いから」と手を振った。


高野は普段は″俺″と言うのか。


「……失恋した」


「え?」


「フられたの、今さっき」


敬語も忘れてただコーヒーの揺れる湖面を眺めていた。もともと高野に敬語を使う生徒なんかあまりいないが。



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