高野先生の腕のなか



いや、前とはきっと違う。だって私の贈ったネクタイを、高野はクマのピンで留めてくれているから。


そんな理由だけど、多分高野は、逃げないで受け止めてくれると思うのだ。


「どうした?」


高野の声にハッと我に返る。高野が私を見ていた。


「手が止まってるぞ」


「あ、ごめん、なんでもない」


慌ててプリントのチェックを再開すると、ギシ、と椅子のスプリング音が聞こえた。



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