高野先生の腕のなか



手首に血が滲んでいた。


私は思い出す。あの日、コップを割ってしまった日、切れた手首を。


ほとんど塞がっていた傷が、昨日階段から落ちたことによってまた開いてしまったらしい。


と、唐突に、体をグイッと引き寄せられた。


「っ…先生?、」


返答はない。


ただ私を、震える体で抱きしめる。



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