高野先生の腕のなか



目の前が真っ白になる。


高野も同じようで、身動き一つ取れず、言葉を失くしていた。


そんな均衡状態を崩したのは、私でも高野でもなかった。






キュッ、という音に我に返る。


私たちを見ていたその人は、狼狽えた表情になって上履きを鳴らして駆け出した。


「待っ…ーー」


私は咄嗟にその影を追いかける。


高野は私が部屋を出るその時までも、立ち尽くしたままだった。



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